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耳鳴りの残響

空がお前を見ている 空の青が青が青がお前の眼を覗き込む 過ぎる電車の耳鳴り耳鳴り耳鳴りが お前の耳の奥深く深く遠く遠く遠く鳴る お前はお前の感知し関知し得なかった 数多の声に囲まれて囲まれて囲まれている お前はお前の耳や目がお前を裏切るのを感ずる お前の目や耳はお前から離れたがっている お前は霞む お前は遠くなる お前は消える 分割に次ぐ分割 部分の部分 断片の断片の断片に 雲間に消える消える消える どこへゆくこともなく 千切れ千切れ千切れ 紛れ紛れ紛れ 破れ破れ破れ 空に浮かんだおまえの目 だったもの 電車に運ばれていったおまえの鼓膜 だったもの おまえは おまえは おまえは おまえは

試みてはならない「からだ」

宣告を受けた「からだ」があった  宣告の内容は忘れられた  夢を見るように忘れられた 囚われた「からだ」があった 囚えるための監獄は壊された 積み木を崩すように壊された 孤児から生まれた娼婦の「からだ」があった 美しい化粧は剥ぎ取られた 魚の鱗のように剥ぎ取られた 征服者のための瀕死の植民地の「からだ」があった 抗うための武器は取り上げられた 子どもの玩具のように取り上げられた なにかのために捧げられた「からだ」があった しかし代わりに捧げられた「からだ」があった ほんとうは捧げられるべき「からだ」があったのだが いつも代わりとして捧げられる「からだ」があった 捧げる先に「からだ」がないから いつまでも「からだ」は捧げられたのに 捧げられた先は「からだ」を受取ることはできないから 捧げられた「からだ」はどこにもいけない ただ「からだ」は取り上げられて また「からだ」として剥ぎ取られて いつも「からだ」であることを壊されて そして「からだ」のことを忘れられた 「からだ」のために捧げられる「からだ」があった 「からだ」を捧げられたことを忘れた「からだ」だけが生きていた 健やかな「からだ」として  「からだ」を忘れ 健やかに

階の十七「たとえば黄色い山の不幸」

天を衝く衝く天を衝く とぐろを巻いた青い塔 山に繋がれ捕われて 仙人様の杖となる 霧が出る出る霧が出る 田んぼの四隅に植えた花 母の供えに手折られて 昆虫たちの家となる 風が吹く吹く風が吹く 明日に漏れた内分泌 情の違いに寒気立ち 宴終りの夢となる 脚が痙る痙る脚が痙る 責を外した朝模様 震えて動く砂を噛み 登る負い目の妙となる

ノート4 「礫の朗読」応募について

【応募した企画】 「#礫の楽音」×「現代詩手帖」コラボレーション企画 「#礫の朗読」作品募集 【制約条件】  朗読のための作品 Twitterで投稿 #礫の朗読を含めた140文字以内 【作品】 流れる川を みおくる鳥も かろんかろんと 軽んじられて 投げたつぶては 還らず沈み 泡のおとずれ 揺蕩いうねる 恋し恋しと 君を呼ぶのは さいの河原の 児のなみだだけ #礫の朗読 — 依田稽一(Keiichi Yoda) (@KeiichiYoda) March 11, 2022 【解釈】 自分の作った詩の解釈を自分でするなんてナンセンスだがそこはそれ。 たまにはいいんじゃないか。 作成のテーマとしたことはふたつ。 ひとつはリズム。 「朗読のため」なのだから、声に出して読むことを想定したリズムがほしかった。 七五調を検討したが、結果として七の音数律の繰り返しという形になった。 もうひとつは「礫」という字。れき・つぶて・こいしと読む。 つまり小さな石のこと。そこからイメージを広げた。 「流れる川を みおくる鳥も」 小石があるのはどこだろう。川のそばだ。 川は流れるし、Twitterのタイムラインも流れていく。 流れるつぶやきをみおくる鳥は、Twitterバードなのかも。 「かろんかろんと 軽んじられて」 小石を握ってこすり合わせたとき、小石が敷き詰められた川のそばを歩くとき、 「かろんかろん」と音のする気がする。 かろんは、過ぎた論なのかもしれない。 流れていく小石と、それをみおくる鳥も軽んじられている。 「投げたつぶては 還らず沈み」 軽さのままに投げられたつぶては、川の中に沈んでそのまま還らない。 つぶてはつぶやきであり、言葉、あるいは軽んじられた誰か。 「泡のおとずれ 揺蕩いうねる」 川に投げられたつぶては、泡をうむ。川の流れ、うねりに包まれる。 「おとずれ」は「訪れ」であり、不可避の「音ズレ」でもある。 泡は誰かの生きの呼吸、声にならない声の捉えがたい形なのか。 「恋し恋しと 君を呼ぶのは」 当たり前のように「恋し」と「小石」をかけている。 「さいの河原の 児のなみだだけ」 賽の河原、すなわち親より先に死んだ子どもが逝く冥土。 父母供養のために石を積むあの世。 声ではない「なみだ」が、君という誰かを呼ぶ。 なみだは流れ、流れる川とひとつになる。 ここに詩は循環する。 ...

階の十六 「ドルフト・ラウト・マンスの絶景」

絶景かな 絶景かな 絶えて久しき景色かな 絶えて久しき光景かな 人身砲弾を詰めに詰め込んだ砲塔を天へ向けて 陣地をえぐり出し掘り進むように着火する 着火する 感光脚を次々に打ち出す斜め45度は 山の斜面を凝視する 雲の指が枯れ枝を摘んで 城塞に旗を立てた 降伏かな 降伏かな 降りて伏せる男かな 降して伏せる女かな 屋根瓦を敷き詰めた田畑の緑の凹凸は狭く 責め苦を待ち望んだ貨物列車は線路に積荷を預ける 預ける 天帽代を流れ流れる過酸化水素水は 滝の費消を譲渡する 老木の髭が道を塞いで 汚れた膚を擦った 絶景かな 絶景かな

おまえだけが 生きてやる

決定的に 自分を許せなくなってしまうような  やらかしを いつか 自分が起こしてしまう前に 自分を許しておやり おまえの孤独は  だれかの孤独で癒せはしないけど おまえの孤独も だれかの孤独を癒せはしないのだから 生きているあいだは その疼痛を舐らねばならない 信頼はおまえを腐らせるだろう 絆はおまえを蝕むだろう 不信がおまえを支え  不和がおまえを後押しする おまえの生に だれかの生きている振りに付き合う程度の意味 しかないのなら いっそ無意味のほうが 遥かにマシというものだ 明日死ぬことに耐えられない今日を おまえは生きた 他ならぬおまえにとって無意味な今日を  なにも善くはなく なにも悪くはない なにも始まらず なにも終わらない なにも結ばれず なにも続かない  どこにもない今日を おまえだけが 生きてやるしかないのだろうさ

君は荒野へ繰り出した

君は荒野へ繰り出した 風にそよいだ葦を見に 夜 吹き消された灯火を 升の下に覆い隠して 髪の毛を黒く焦がす 小犬にパンをあげましょう 子羊から取り上げたパンを 歯ぎしりする歯もなく 追い出される家もなく 闇を感じる視力もない ただ涙と涙 また涙 教会で叫べないから 墓場で叫ぶのですか 街中で叫べないから 山中で叫ぶのですか あのひとが忘れたからだを思い出すため かれはその身を石で滅多打ちにしただけ 耳のきこえない耳  口のひらけない口 おまえたちは念入りに 始末されてしまったから 塩気をつけたあと焼いたのに 内なる火をさがすのをやめた 2000年前のぶどう酒は新鮮で 2000年前の革袋は新品だった 2000年後のぶどう酒入り革袋は 野薔薇の葡萄を摘んで入れて 茨のいちじくを採って入れて かき混ぜてしまえばきっと新しい 風は風であることを忍ばないまま 葦は葦自身を信じられないまま 蛆は食い荒らすことを望まないまま 肉は耐えることに耐えられないまま 夜 盗人のようにやってくる  盗人ではない なにか ぼくにはあなたが見えないからと 君は荒野へ繰り出した 風にそよいだ葦を見に

死と農夫の忘れられた踊り

死と農夫がダンスを踊っていた くるくるくるり くるりくるくると さようなら貴族 さようなら知識 さようなら美 これまでのあらゆる積み重ね 円熟あるいは新鮮さよ さらば 荒野で独り ひとしきり泣いたあとの 夕焼けに照らされた空白の時間も 凍てつく冬の日に 明るい居間で 温かいスープで 僕を迎えてくれた母の愛も 見知らぬひとの 誰かを呼ぶ声も 逸らされた目線も 残り香すらも すべて すべて すべて このダンスの向こう側へといってしまった 愛のあとを悲しみが追いかけていった 快の後ろを不快が追いすがっていった 言葉の後を沈黙が先回りして 言葉の行き場を失くし 罪業が懲罰を置き去りにしてしまった 責任が自由を追い越してしまった   正義は復讐と勘違いされ 復讐は因果と仲違いをさせられた 死の髑髏が 踊れ踊れ踊れというのだが 俺の髑髏は 転べ転べ転べと歌うのだ 望むと望まざるとに関わらず 私は望むべきことを望めなかったし 望むべきでないことを望んできた 彼の踊りはただ転ぶ前の振りに過ぎず 彼の転倒は踊りの振りでしかなかった 望むと望まざるとに関わらず いつだってそうであり いつもそうじゃない 黙って転べ 踊りをやめろ 農夫よ 死にそれをやめさせよ  と誰も命じることができなかった 命じさせることを命じることもできなかった 光なき太陽 熱を奪う火 湿り気のない水 正気に戻った月 嘆くなと諭されることの嘆かわしさ 笑えとせっつかれることの笑えなさ 良い言葉なんて評が言葉に対する侮辱でなくて何であろう 心を和らげることが心に対する暴虐でなくて何であろう 生まれるやいなや お前は俺に踊りを仕込んだ 俺はお前に仕込まれた 生まれるやいなや 俺はお前に貸し付けられた お前は俺に借りさせた はじめからすべてが仮なのだとしたら俺にとってほかに真があるのだろうか これまでのすべて これからのすべて 不当であり正当であるものたち 旅をさせられたものたち 己にとって この地にとって 異邦人である皆 みんなみんなみんな 死と踊り 農夫と寝る そして転ぶ くるくるくるり くるりくるくると