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彼と彼女は疲れたのかも

彼女は星を食べるのか? 夜空に白く細長い指を這わせる。 流れ星を摘み上げて口許へ運ぶ。 星は消える。 重力だけが彼女の体内に沈殿する。 闇がひとつ増える。 彼女は星を食べるのか? 君は問をひとつ空に浮かべる。 夜空に白く細長い指は届くのか? 流れ星に指先は追いつくのか? 目のない彼女の顔は君を見つめるのか? 三つの中から選びなさい。 三度繰り返しなさい。 行って帰ってきなさい。 そしてまた行き、二度と戻らないように。 彼女の指が君の瞼の裏を撫でる。 夜が明ける。 浮力だけが君の支えとなる。 星がひとつ増える。 黄昏が君の中に沈殿する。 君の指は彼女には届かない。 流れ星は夜の輪郭を運ぶ。 君の指はそのままに。 彼女の肚の中へ。

だれがあしたのオーナーになれるか

きょうのきみへのオリジナリティを オアシスを彩る砂漠へと振りまいて さらば見よ されば見よ 仰げ空を このルールは真にオートクチュール オプションに冤罪のフタコブラクダ 揺れる空 揺れる石 砂塵に冒され 人工知能のオンコロジーを摘出せよ 海綿体こそがオープンネスであれば 霞む肌よ 霞む骨よ 風化した風よ だれがあしたのオーナーになれるか 本質はオーナメントの行く末を案ず 一点の遮りと固着 凝縮する何処か 

鞭打ち爺さん空を飛ぶ

HO! HO! HO! 鞭打ち爺さん空を飛ぶ 鼻より赤い尻を眺めて 慌てふためく世の子のために 褒美という名の罪咎積んで HO! HO! HO! ふた月遅れの人身売買 互いのからだを枕に預けて 折り重なる夜に積まれた子らの 一途と一途と一途をさらう HO! HO! HO! 眠れ良い子よ我を忘れよ 目覚めよ悪い子ひとりの夜に 嗄れた美声で聖歌をうたい 野菜の汚汁で名画をえがけ HO! HO! HO! 鞭打ち爺さん空を飛ぶ 鼻より赤い尻を眺めて 遥か彼方の世の子のために 懲罰代わりの供物を積んで

『月刊ココア共和国2022年11月号』佳作掲載と感想

詩誌『月刊ココア共和国2022年11月号』の佳作集に拙作「木になる君へ」が掲載されました。 ココア共和国|あきは詩書工房|月刊「ココア共和国」11月号 「とにかくみんなで詩を楽しもうよ」ということが目的のB6版の月刊詩誌、11月号が発売です。電子版は360ページになり、より www.youyour.me 佳作集は電子版のみの収録です。よろしければご鑑賞ください。 以下はココア共和国11月号を読んで気になった詩についての感想です。 森崎 葵「プレゼントはいりません」 「もらえるものは病気以外はもらっとけ」なんて言葉もありますが、贈り物を受け取ることも時には息苦しく感じることがあったりする…ことを思い出させてくれました。 「贈与」って、そこでやりとりする「もの」の内容よりも、贈り贈られる「関係」のほうに重きが置かれているので、「呪い」とか「義務」が生じる土壌になってしまうこともあるのでしょう。そこに個人として「ほしいもの」とのギャップを強く感じてしまうこともあり、どちらかと言えば私もプレゼントを貰うのは苦手な口です。 これまで貰ったプレゼントを「湖に捨て」て、果たして自由になれるのか。そこから先は、その人にしかわからないことでしょう。 少し話がそれますが、最近読んだニーチェの『ツァラトゥストラ』に、連想する文章があったので下記に引用します。 「何も与えるな」と、森の聖者が言った。「むしろ人間から何かを取ってやって、そいつをいっしょに背負ってやれ。――それが人間にたいする一番の親切じゃ。(…)」 フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラ(上)』、丘沢静也訳、光文社古典新訳文庫 確かに、与えてくれる人は世の中を見渡すと結構いるけど、(自分の)何かを背負ってくれる人ってそうそう見つけられないんですよね。背負う側としても、安易に背負うわけにもいかないし。 まぁ社会の中で生きているあいだは、意識せずとも多くのものを多くの他人に背負ってもらっているのですから、そのことについては感謝の念を忘れたくないものです。持ちつ持たれつ。 こえちた「卒経」 なんだか勇気をもらえた詩です。自分の体の変化に戸惑いながらもそれを自分なりに見つめて、乗り越えて、受け止めて、前向きに再解釈していくのが良いですね。 心細かった幼い頃に相談に乗ってくれた「オバちゃん」のように、年を経て自分も誰かの助けになろう

雨トモタタカワズ

宮沢賢治「雨ニモマケズ」のパロディ詩です。 ---------------------- 雨と戦ったことはありません 風と戦ったこともありません 雪のあまり降らない地域に住み夏の暑さはエアコンで凌いで 週一でジムに通って体作りをし 欲しい物リストは公開しています(リンク) 人に共感してよく怒り 草を生やして笑いますw ご飯は少なめで半分残し サラダチキンとスムージーでダイエット あらゆる割引とクーポンとポイントと節税を勘定に入れ SNSによる効率的な情報収集と専門家の知見に頼り 繰り返しのリマインドでタスクは忘れず 野原の松の林の木を伐り出した 自然素材のマンションに居て 東に病気の子どもあれば誰か看病してやれよと思い 西に疲れた母あれば私はもっと疲れているのだとのたまい 南に死にそうな人あれば怖いので近寄らず 北に喧嘩や訴訟があれば面白いぞもっとやれと煽り ひとりの時はなるべく作らず 寒さの夏はタクシーを呼び みんなにデキる人と思われ 「いいね」を集めて 気楽につきあえる そういうものに 私はなりたかったのでしょうか 守るもの無し 広めるもの無し 証するもの無し 言葉も無し 慈悲も無し 清めも無し 依りどころ無し ---------------------- ※以下は参照元の〔雨ニモマケズ〕です。(出典: 青空文庫 ) ---------------------- 雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ 野原ノ松ノ林ノ蔭ノ 小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ 東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ 南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ 南無無辺行菩薩 南無上行菩薩 南無多宝如来 南無妙法蓮華経 南無釈迦牟尼仏 南無浄行菩薩 南無安立行菩薩 ---------------------- 詩を書

スカラムッシュは一つのことしか考えない

スカラムッシュは一つのことしか考えない。 一つのことしかないゆえに、その一つが、 いくつかあるものの中の一つであるとは考えない。 その一つを選んだわけではない。その一つが全てである。 一つのことしか考えないゆえに、一つのことを区別しない。 分類しない。解剖しない。複製しない。消却しない。 すなわち理解しない。肯定も否定もしない。 それは我でも汝でもない。自でも他でもない。 スカラムッシュは一つのことしか考えない。 スカラーでもなく、ムッシュでもなく、スカラムッシュとして考える。 スカラムッシュはスカラムッシュのことを考えない。 スカラムッシュは考えることについて考える。 考えることについて考えているうちは、それがただ一つのことである。 考えることについて考えることをやめたスカラムッシュはスカラムッシュではない。 考えないスカラムッシュはスカラムッシュではない。 いくつかのことについて考えるスカラムッシュはスカラムッシュではない。 いくつかのことについて考えないスカラムッシュはスカラムッシュではない。 考えたり、考えなかったりするスカラムッシュはスカラムッシュではない。 スカラムッシュは一つのことしか考えないゆえに。 おそらくたくさんのスカラムッシュがいる。 スカラムッシュでないものもいるが、いくつものスカラムッシュであるような スカラムッシュが幾人もいたことだろう。 私はスカラムッシュではないし、スカラムッシュに会ったこともない。 スカラムッシュでない者の数は、スカラムッシュを増やしも減らしもしない。 スカラムッシュは一つのことしか考えないスカラムッシュだから。

宇宙の始まる前、切り取られた左耳に語られた13のこと

 切り取られた左耳はビックバンの3秒前の時空間に固定すること  切り取られたのは左耳を痛みから遮断するための処置であること  鼓膜と内耳と三半規管の間に分かちがたく疼痛は持続していたこと  音は拾えていたこと  3の条件が満たされている場合に、1は予定されていたことは予告済みであること  右耳の協力は得られなかったこと  エーテルは本件に無関係であること  4−7に関しては、他に開示して差し支えないこと  花の香りを感じることがあるが、副作用の一部として報告された事項であること  所有権移転は留保されているが、1の領域外においてはその限りではないこと  1−10の変更の際には事前の予告が必要であるが、同意は必要ではないこと  1−11の変更履歴情報は予告なく削除されないが、自動保存される仕様ではないこと  希望すれば鏡台を設置することが可能であること