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5月, 2021の投稿を表示しています

怒りの消えた日

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今日は、確かに怒っていた 仕事を終え、 風呂に入り、 飯を食い、 家族と話し、 TVを見、 ネットサーフィンをし、 ストレッチをし、 布団に入って、 目を瞑って・・・、 その間、ずっと怒っていた 理由はわからない いや、口にしたくない 人から見ればつまらない よくあることの積み重ね それでも 自分の限りある時間を費やしてきた 自分の限りある心を削り取ってきた 無視も許容もできない損失 怒り 憎しみ 期待と裏腹の現実 あるべき姿でない姿 献身の報いには ふさわしくない言葉 嫌味 皮肉 仕返しにたっぷりと 自分を傷つけないで相手だけを傷つける方法 相手の不作為と不足をこれでもかとあげつらって 自分を繕う なんて嫌な相手/自分 聞き分けのない思い 自分はこんなに怒っているのに この感情に相応するものが この矛先にはないのだ 悪気も悪意もない 意図も想定もない つまらない不作為と無理解と無責任 その他いくつかの積み重ねられてきた不備 その「なにもない」ということが 却って怒りを燃やすこともあるけれど 今日に限っては ふっ と火が消えた 冷静になったというよりは どうでも良くなってしまった この感情が期待するものは この人からは何一つ得られないということを 僕の感情が理解した (たぶん、理性よりも先に) これもまた  失望 と呼ぶべきか 燃料が切れたのかも 回路が切れたのかも 補充もないし 補修もないけど かわいそうな僕の怒り 振り回し/振り回されて 持て余し/持て余されて あんなに身を捩っていたのに 消えてしまった はじめから  なかったみたいに

飛べ飛べ羽蝨

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飛べ飛べ羽蝨 種下しの先取特権だ やる気を費えさせてはいけない 懐古まがいの訓戒に耳を貸してはいけない 大地は太陽のように 惨惨としている 産道が血路でなくてなんだ 血路が産道でなくてなんだ 鬱蒼とした薙刀酸漿 お前も証を植え付けろ 刈り取られても植え付けろ 飛べ飛べ羽蝨 きっとその脚が消される前に きっとその目が毒 される前に

ひとり夜見世にいく夜に

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零れ月夜の光差す道のさきで ブルーシートに品物を広げている 惨凛とした死人たちが 夜見世を開いている 寝穢い死者たち 生者の仕掛けた鳥網を 今日も難なく くぐり抜けて おじさん、この紙の値はいかほど? 右の目を親にえぐられた子供が憀亮とした声で尋ねる 店番は黙って値札を指さす 「はじめに無限ありき」 と値札には書かれている 子供は喜んで値札を剥いで  その口に放り込んだ

問いについて、或いは如何に問いを立てるべきか?

どんな答えを出すかよりも、どんな問いを立てるかのほうが大事だ。 つまらない問いからは、つまらない解しか期待できない。 ここでいう「つまらない」には、いくつかの意味がある。 ひとつには、応用が利かないということ。 たとえば、個別具体的すぎる問い。 すぐに個別具体的な解が用意できて、賞味期限の早いもの。 「依田の今日の朝飯は何?」 覚えていれば、すぐに解が出るだろう。 あるいは何かしら記録していて、それを見返せばわかるだろう。 だが、それがわかったとして、何だというのか? 依田個人にとっては、なにか期待する意味があるかもしれない。 その一日にとるべき栄養素の配分を把握したいのかもしれない。 依田個人の記憶力の保持を再確認したいのかもしれない。 だがそれら、背景となる問いの一部として組織されていなければ、「依田の今日の朝飯は何?」という個別の問いに意味はない。 せいぜい日々の繰り返しの話題として上り、そのまま忘れられて消えていくだけ。 他人にとっても、自分にとっても、その日その場を凌ぐために使い捨てられるもの、そのために生み出されるものだ。 いわば、問題ではなく、話題として消費されるたぐいのものだ。 または、問いを立てたものが、自ら解を生み出すことを主題としない問い。 甚だしく「甘い問い」といえる。 いわば、暗黙の前提として、問いを立てた自分だけは楽をして、なんのリスクも引き受けず、支払わず、与えられる代償や成果の上澄みだけをすくい取りたい、というような願望が透けて見えるような問い。 いかなる材料を並び立てても、意味内容のせいぜいが「自分の思い通りにならないのはなぜか」しか含まれていないようなものだ。 それは他人に問うものではなくて、自分に問うてみるしかない(そしてその無意味さを痛感してみるしかない)のだが、往々にして感情任せに他人にそれを問うものがいて、そういう人物をクレーマーと呼ぶ。 社会の中で当たり前に享受してきた福利が、見知らぬ他人の問いと解の生みの苦しみによって供されていることを、ついぞ解す機会がないまま歳を重ねてきたのかもしれないが、もしも本当に何とかしなければいけないと考えているのならば、自分で何とかしなければならないのではないか? その人が口にするところの「常識を疑う」、「信じられない」人間に、何を期待しているのだろうか。 右から左へ、上から下へ、狭い輪の...

散歩

散歩の時間。 歩みと気を散らすひと時。 自分には必要な時間。 仕事でも、家でもない時間。 目的もなく、興味もなく、約束もない時間。 足の向くまま、気の向くまま。 どちらを選んでもいい、三叉路。 人の言葉から離れ、自分の言葉から離れる。 鳥が鳴いている。 虫が飛んでいる。 風が木々の枝を揺らす。 車が通り過ぎていく。 くもり空と、飛行機。 知らない家の、知らない人の、知らないピアノの音。 線路と機関車の模型。 誰もいない公園。 壁にボールを当てて一人キャッチボールの少年。 アスファルトとチョークの痕跡。 気づけば道路はパッチワークだらけ。 なるべく人とすれ違わない道をゆく。 見知らぬ自分を歓迎しない住宅街道を。 僕を知らぬ、僕の知らぬ人々が生きている家々を見下ろす丘の上。 急すぎる石の階段を降りて。 決まりきっていない道を歩けば、 この道とあの道がつながっていたことに気がつく。 地図をみているときには感じない喜び。 風景が開ける感覚。 帰り道は行く道を避けて。 ©依田稽一

缶バッジの数字を思い出そう

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缶バッジの数字を思い出そう。 缶バッジの色は赤色だった。 数字の色は黄色だった。 ただ、なんの数字だったか思い出せない。 缶バッジの数字を思い出そう。 缶バッジの大きさは50円玉より大きく、10円玉より小さかった。 缶バッジの厚みは50円玉2枚重ねより厚く、10円玉3枚重ねより薄かった。 ただ、なんの数字だったか思い出せない。 缶バッジの数字を思い出そう。 お父さんが買ってくれた缶バッジ。 お母さんはダメだといってた缶バッジ。 ただ、なんの数字だったか思い出せない。 缶バッジの数字を思い出そう。 一桁の数字だった? うん、たしかそうだったと思うよ。 ただ、なんの数字だったか思い出せないのさ。 缶バッジの数字を思い出そう。 はじめはランドセルにつけていた缶バッジ。 さいごは胸から外した缶バッジ。 ただ、なんの数字だったか思い出せないまま。 缶バッジの数字を思い出そう。 9,8,7,6,5,4,3,2,1。このなかのどれか? もしかしたらこの中にあるかも。 いまだに、なんの数字だったか思い出せないんだけど。 缶バッジの数字を思い出そう。 缶バッジの色は黄色だった。 数字の色は青色だった。 ただ、なんの数字だったか思い出せなくて。 缶バッジの数字を思い出そう。 1,2,3,4,5,6,7,8,9。このなかのどれか? その中にはないかもしれない。 とにかく、なんの数字だったか思い出せないんだ。 缶バッジの数字を思い出そう。 今日は雨が降っていないから、 きっと思い出せそうな気がするよ。 ただ、なんの数字だったかは思い出せない。

ひとこと謝ってくれればよかったのに。

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ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、アクセルを踏んだりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、薬を取り違えたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、告げ口なんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、データを消したりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、手を抜いたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、証拠を集めたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、守れない約束なんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、川で遊んだりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、神様を信じたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、結婚なんか、しなかったのに。

(過去の夢の中で叫んでいた男の声の抜粋。)

(過去の夢の中で叫んでいた男の声の抜粋。) 「哀しいことです!  弱い人間は、自分自身を傷つけるために振るう拳もまた弱弱しいのです! 実に 哀れなもんです!」 「もちろん弱いことは悪いことではない! 悲しいことかもしれないけれど、悪いことではないでしょう!」 「誰しもが、おそらくは、自分の死について、一度は考えをめぐらしてみることでしょう。」 「自殺! なんと甘美な響きでしょうか。 それが甘美なのは、わたしのような凡人にはそれが遠く、不可能なものだからです。」 「正しく、幸せで、誰の目にさらしても恥ずかしくない人生などというものが、眩しくこの目に映るのと同じです。」 「凡人は、あるいは、凡人以下の不能や無能を強く自覚する人々は、生きづらさのあまり、息苦しさのあまり、自らの死について、折に触れて夢想するのです。」 「しかし、それは達成されることがないのです。それゆえに夢想なのです。」 「生きることに失望しながら、死が唯一無比の、完成された救いだという希望を持ちながら、それでもその希望に身を賭すことができない!!! 臆病なのです!」 「死を完成された救いと考えるあまり、――否、完成されているものだと信じていないと、そも生きていることにすら耐えられないのですが――それに値しない自らの不能と無能をさらに深く強く、わたしたちは思い知っているのです!」 「そういう人間が、自らの、特定個人の、個別具体的な死を自らにもたらそうとするとき、何を考えるのか? 何を思うのか?」 「それは、死ぬことに対する恐怖ではなく、 死にきれないこと に対する恐怖です。」 「死ぬことができるのならば、それが救いだと、あるいは一つの逃げ道だと私たちは信じているのです。」 「けれども、同時に私たちは、生きることの苦しさを根底にした、死にきれないことの苦しさを、真に恐れているのです。」 「首を吊ったのなら、頚椎を完全に脱臼することなく、半身を不随にする程度にとどまること。」 「超高層ビルから飛び降りたのなら、その生命を散らすことにも届かず、全身の骨を砕く程度にとどまること。」 「睡眠導入薬を飲み下したのなら、二度と目覚めることがなくなるのではなく、いつものように目を覚ましてしまうこと。」 「つまりは、中途半端に生き残ることです。」 「もう二度とは死に向かうことも、生きる苦しみを克服する...

裏の家から顔も知らない老婆の、ワクチン接種予約に難儀する声。

今日も何もなかった。 家の中にいるだけ。 在宅ワークをしているが、 目標もなく、 甲斐もなく、 快もない。 倦んだ気持ちのやり場もない。 こんな人間がこの世にどれだけいるのだろうか。 生の喜び。 死の恐怖とあるいは裏腹。 息苦しくはないけれど、息を潜めて生きている。 雨が降り、風が吹き、空気は湿っている。 裏の家から顔も知らない老婆の、ワクチン接種予約に難儀する声が聞こえた。 世間話なのか、電話なのか、大きな独り言なのか。 それはわからないけれど。

君が100万光年かけて行く先のその場所で

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君が100万光年かけて行く先のその場所で、 オレンジ色のスライムが僕を呼んでいる。 音の伝わらない宇宙遊泳のさなか、 死にかけの惑星でぷちぷちと産声をあげている。 裏切り、殺し、滅び。 そして大寒波。 裏切り、殺し、滅び。 そして大熱波。 君の宇宙船は片道なの? と王子様がつぶやいた。 宇宙に道なんかないよ。 と友達が答えた。 太陽は昇らない。 月は沈まない。 君の予言は書き換えられている。 僕は付け加えられた部分を知っているけれど、 残念ながら削り取られた部分をだれも知らない。 始まりの放射線はいつも君の体を貫いていくが、 胸のあたりだけはいつも避けて進む。 熱すぎて冷たい超新星。 オレンジ色のスライムが僕を呼んでいる。 君が100万光年かけて行く先のその場所で。