散歩

散歩の時間。

歩みと気を散らすひと時。

自分には必要な時間。

仕事でも、家でもない時間。

目的もなく、興味もなく、約束もない時間。

足の向くまま、気の向くまま。

どちらを選んでもいい、三叉路。

人の言葉から離れ、自分の言葉から離れる。

鳥が鳴いている。

虫が飛んでいる。

風が木々の枝を揺らす。

車が通り過ぎていく。

くもり空と、飛行機。

知らない家の、知らない人の、知らないピアノの音。

線路と機関車の模型。

誰もいない公園。

壁にボールを当てて一人キャッチボールの少年。

アスファルトとチョークの痕跡。

気づけば道路はパッチワークだらけ。

なるべく人とすれ違わない道をゆく。

見知らぬ自分を歓迎しない住宅街道を。

僕を知らぬ、僕の知らぬ人々が生きている家々を見下ろす丘の上。

急すぎる石の階段を降りて。

決まりきっていない道を歩けば、

この道とあの道がつながっていたことに気がつく。

地図をみているときには感じない喜び。

風景が開ける感覚。

帰り道は行く道を避けて。


©依田稽一

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