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寂しいのかもしれない

誰かに何かを言いたいような気持ち 誰かに話しを聞いてもらいたいような気持ち でも言いたい何かは  何もないので 下唇をかみ続けている 聞いてもらいたい話も  自分が聞いたこともないので ため息を付いてばかりいる 寂しいのかもしれない けど ヒトを呼び止めるのも億劫だ 話しかけるのも 話しかけられるのも 用意がない する気もない どうしようもない 手を切ったのは自分だから 繋がなかったのは自分だから 何もなくても それでいいのが一番良かったのに 何かがなくちゃいけないなんて 思い込んで あーあ こんなことなら こんなことなら 何をすればよかったのやら 後悔する心すら 薄れている 誰からも顧みられることなく 自分で省みることもない 対話なんて 今までできたことあるのかしら 独り言を交互に言い合っていただけかも ちょうど今 自分を自分で慰めているように 他人が羨ましいのか  それすら言い切れない  ただ言い知れないものがあって 解くことも 消すこともできずにいる これが ずっと続いて ただ老いて 死んで 消えていくのか いままで自分が 他の人に対して 他の人の孤独を その人自身の悩みと失意を 理解も 認識も 察しも 想像もしなかったように 理解も 認識も 察しも 想像もされずに それが避けがたい現実なのだとして それがたまらない 耐え難い  惨めだね  ©依田稽一

同託

目覚めてはいけなかった 眠るのが怖くなるから サイレンが遠いところで鳴っている それがなんの徴表かわからないまま 安堵と失望を経て 祈りの言葉を口にして ひとり床につく 慰めて 忘れて 夢を描いて その色が褪せていることに 落胆して 気づかないまま 気づかないふりをしたまま 昨日の続きが始まるのだ

恨恨として

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おいぼれに かかずらっている ひまはない 今日は明日のため 明日は今日のため 血みどろの胸の奥 空洞に脈打つ不安が なおも 誤りを許さない この望みを 手放さず 夢にも換えず 焦げ付いた痛みを 抱えながら おいて いく おいて いかれる 昨日のために今日が すり潰されていく 泣き出す代わりに 作り笑い とってつけたら へばりついてしまう 宛もないが いかなくちゃ いけないのか そんな笑みのままで たのむから おいて いかないで

空所に谺する

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来復せよ 来復せよ いつか来た道を 行き先も告げずに 追い落とされた雫が 垢すりの荒い目を盗んで 削がれたまま跛行する 昨日までは居たはずの 悩乱する害鳥たち 昔はともに居たはずの 落剥した告解たち 来復せよ 尸が泣き立てている 惴慄した泊まり船が 船出することなく帰港を待ちわびている 来復せよ 拠り所へ 縁を頼りに きっと はじめは 他でもない ここに 来復せよ 来復せよ

下書き

書いては消し 書いては消し 書いては消す 消しては書き 消しては書き 消しては書く 思いついては打ち消し 思いついては打ち消し 思いついては打ち消す 書くことのないこと 書かなければならないこと 書かなければならないことのないこと 殴り捨てたもの のような 書き捨てたもの のような いたづらに時間を差し出させるもの のような 怒りはもっとも しかし はじめから差し出す時間など持ってはいなかった 人の手に時間はない 時間の中に人はいる 常にいるわけでもないが… 時間は人を支配しない 時間は人を必要としていないから 人が時間をその必要に応じて支配するだけだ 時計 カレンダー 暦 そしていくつかの約束 明日はない 昨日もない 今日もない あることにしているだけ そういう詐術 長い時間をかけて培ってきた ヒトがヒトビトを騙すためのもの はじめからありもしないものになぞらえて 労働と安息の日を過ごす 繰り返してなどいないのに 繰り返していることにする その日を待っている その日を待ち望んでいる だから今日は下書きのまま ©依田稽一

希釈された尾頭付き仁粉の盛り切りについて(月報)

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間もなく配信終了です 間もなく配信終了です 間もなく配信終了です どうかそのままでお待ち下さい どうかそのままでお待ち下さい どうかそのままでお待ち下さい 三度くり返す (ことはなく) 三度くり返す (こともない) 即ち 誰でもない大衆に放たれた演説の中継ぎである 曰く 我ら党派性を超越して 今まさに未来を甦生せんがため 一人ひとりの在席を退席することにおいては 脇見にかけて果たされますよう (果たされますよう) その口火を切るものも その口火を消すものも 終に尽く果てますよう (果てますよう) 悄気込む柄杓の底抜けの明るさに 目を奪われる者共を都度修整することを 此処に誓います └―其処に誓います―――  └―彼処に誓います―――   └―何処に誓います―――    └―此処其処に誓います―――     └―其処彼処に誓います―――      └―彼処何処に誓います―――       └―何処此処に誓います―――        └―此処其処彼処に誓います―――         └―其処彼処何処に誓います――― 見事な一本 見事な螺旋 同志の惑志もまた同志 惑志の同志もまた惑志 代わり番こに生きようか 代わり番こに減らそうか あぁ、喉が渇く (どうかそのままお帰りください) しかし、喉が渇く (間もなく配信開始です) 喉から手が出るほど、乾く (どうかそのままお帰りください) 喉元過ぎれば、乾きを覚える (間もなく配信開始です) 間もなく配信開始です

種蒔き

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「夜の9時から11時のあいだに、この種を蒔くこと」 投函されていた封筒には、一枚の紙片と幾粒かの黒い種が入っていた なんの種なのかも 何月何日の夜9時から11時なのかも どこに蒔けばいいのかも わからない でも これが向日葵の種でないことはわかった 向日葵の種は見たことがあるから まあ なんの種なのかはわからないけど どこに蒔けばいいのかといえば ぼくんちの庭でないのは確かだ ぼくんちに庭なんかないから まあ 蒔くだけなら部屋の中でも 構わないけど それじゃ育たないだろうし 育たないことを知っていて 蒔くことと 捨てることに 果たして違いはあるのかしら 蒔け とは言われたけど 捨てろ とは言われていない せめて育つのを期待できそうな場所がいいだろう そして いつ蒔けばいいのか 別に期限なんかないだろうし 良い日も悪い日もないだろう ただ 早いほうがいい気がした 「夜遅くだしね」 夜の11時または23時を過ぎてしまったけれど 種を蒔きに来たよ ここは上から下へ いつも風の吹いている丘 北から南じゃないよ 上から下へ 殴りつけるように吹いてる 朝も夜も 夏も冬も これまでもこれからも きっとここなら育つんじゃないかな 左の手で体を支えていた僕は 右の手のひらをひらいて 痛みに耐えながら  僕の種たちを蒔いた すると僕の種たちは 地に落ちることなく ふよふよと漂いながら 天空へと吸い込まれていくかのように 天空へと吸い込まれていった 風は変わらず上から下へ吹いていた 僕は地に伏して泥をなめていたので 彼らの昇天を目にすることは叶わなかったが 封筒と一枚の紙片とを 破り捨てることはできた ざまあみろ これであいつらも 星々の仲間入りさ―― と思った矢先に 朝9時を知らせる鐘がなる 慌てて顔を上げてみると  鼻先に向日葵の花! 目のない顔で僕を見つめている その時 夜でもないのに影が差した あぁ あいつらひょっとして 太陽に灼かれちまってないかしら