投稿

金盞花

イメージ
一輪の花を手折った少女が立っていた。 彼女は骸骨の仮面をかぶって、首を傾げてこちらを見ている。 骸骨の歯並びはガタガタで、不揃いな金歯があるせいで、口元に笑みが浮かんでいるように見える。 けれど彼女は笑わない。 笑うことを知る前に、いってしまったのだから。 足元には虎の首が落ちている。 口元には血が滴り、舌がだらんと垂れている。 恐ろしい魔除けの面だ。 幼子ならば泣いただろうが、彼女は声を上げない。 泣くことすらなく、いってしまったのだから。 小さな手に握られてるのは金盞花。 それはわたしが供えるべきだったもの。

シニカルな死神あくまでも悪魔 (その二)

死神がまぶたのない目を閉じようとすると、ドアを開けて悪魔が入ってきた。 「今日の手捏ねハンバーグの出来はまずかった」 「あれではメスの捌きようもない」 「あれが今日の100%なら明日の80%は良くても昨日の30%だろう」 聴診器を投げ縄のようにブンブンと振り回しているあの悪魔は、確かに死神の主治医であった。 「やぁやぁやぁ、死神くん。今日の調子はいかがかな」 「昨日よりはだいぶ調子がいいように見受けられるがね」 「この分ならすぐにでも退院できそうだ」 死神が悪魔の主治医の診察を受けたのは、もう一ヶ月も前のことだった。 悪魔は昨日の調子どころか、一週間前の健康状態さえ把握していないだろう。 少なくとも、以前よりは悪くなっているはずだ、と死神は主張した。 「なるほどしかし、ひと月前のことを昨日のことのように感じる感性も、それはそれで奇特なことではないだろうか」 「あるいは死神くんが昨日のことをひと月前のように感じているのかも」 「ますます結構。長生きできるね」 悪魔はけらけらと笑いながら、死神の枕元に立った。 悪魔の手のひらが、熱を測るように死神の額を撫ぜる。 死神は自分の額に足長蜘蛛が這っているような気分がした。 やめてくれないか、と口にしようとした刹那、がっちりと両の手で頭部を固定された死神は、そのまま額に口づけをされた。 まるで海星が彼の額を這っているかのようだった。 悪魔は今まででいちばんやさしい声でこう告げた。 「君は治らない」 「手の施しようがないんだ(施したこともないが)」 「だから今日で退院だよ。心からおめでとう」 いつの間にか死神のベッドはストレッチャーへと変わり、悪魔に押されるまま、廊下を走り出していた。 死神の身体は、彼の黒いローブごとベルトで固定され、身動き一つ取れない。 いったいどこへいくのか、と死神は聞いた。 「君が行くべきところだよ」 「またの名を焼却炉ともいう」 「病床数も大事だが、回転率も大事なのだよ」 たちまち彼らは死体安置所へとたどり着いた。

ぽっくりぽんのうた

イメージ
ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりいきたいぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりきらくにぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりとつぜんぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりさよならぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりいこうよぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりあいつもぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりわたしもぽっくりぽん ぽっくりぽっくりぽっくりぽん ぽっくりあなたもぽっくりぽん

シニカルな死神あくまでも悪魔(その一)

その死神は死にかけていた。 身体は痩せこけ、骨と皮だけのようになっていた。 身にまとうものといえば黒いボロ布一枚。 カチカチと噛み合わない歯を鳴らして、息も絶え絶えに横たわっていた。 ベッドの傍らでは、看護士が点数稼ぎのために色々の処置を試している。 在庫を処理するために投与された薬剤の数は3桁を超えた。 いくら飲ませようが打ち込もうが貼ろうが塗ろうが、症状は良くも悪くもならないので、看護士も意地になっていたような気がする。 隣のベッドでは、シンデレラが引きつけをおこしていた。 サンマが食べたい、サンマが食べたい、サンマが食べたいと、きっかり5分おきにうわごとのようにつぶやいているお姫様だ。 そんなに食べたいのなら、あげればいいのじゃないかと看護士に進言したらば、彼女はノドと肺に魚の骨が刺さっているんですよ、と返された。 では血を抜きましょうね、と看護士が優しく声をかけてくる。 悪い血を体の外に出しましょうね、と言って、慣れた手付きでチューブのねじれを直す。 機械のポンプが上下すると、みるみる透明のパックが液体で充満する。 シンデレラがサンマが食べたい、と言い終わってから、また次に言い始めるまでの間にこの作業が4度繰り返される。 血液パックを4つ首からぶら下げた看護士は、隣のベッドに行き、では血を抜きましょうね、と優しくシンデレラに声をかける。 悪い血を体の外に出しましょうね、と言って、慣れた手付きで針先の消毒を済ませる。 機械のポンプが上下すると、みるみる透明のパックが液体で充満する。 シンデレラがサンマが食べたい、と言い終わってから、また次にいい始めるまでの間にこの作業が3度繰り返される。 血液パックを7つ首からぶら下げた看護士は、こちらのベッドに戻り、では新鮮な血を入れましょうね、と優しく声をかけてくる。 良い血を体の中に入れましょうね、と言って、慣れた手付きで同意書にサインする。 機械のポンプが上下すると、みるみる膨らんだパックが萎んでいく。 シンデレラがサンマが食べたい、と言い始めてから言い終わるまでにこの作業が3度繰り返される。 血液パックを4つ首からぶら下げた看護士は、隣のベッドに行き、では新鮮な血を入れましょうね、と優しく声をかける。 良い血を体の中に入れましょうね、と言って、慣れた手付きで同意書にサインする。 機械のポンプが上下すると、みるみる膨ら...

きれいな夏のひどい予感

イメージ
まぶたの裏にチリチリと夏の日差しを感じるのは、きまっていつも寒い日だ。 遠くの想い出が、プールサイドに佇んだまま、光の飛沫を見ている。 セミの鳴き声と、こどもたちの笑い声が聞こえてくる。 気だるさのない、刺すような熱気が皮膚を焼く。 眩しい幻視。 冬のさなか、夏はいつも待ち遠しいものだ。 だけど、そんな夏には一度だって巡り合わない。 感じるのはいつも不快な暑さだけ。 (早く通り過ぎてしまえ) (いったい、いつ終わるんだ) (もう二度と、来ないでおくれ、頼むから…) きっと、夏のただ中では、夏の魅力を感じることができないのだろう。 目の眩むような光は、想い出の中でしか、見つめ続けることができない。 目が焼き尽くされてしまわないように。 待ち遠しいけれど近づかないまま。 動きはあるけど止まったまま。 音はするけど変化のないまま。 くっきりと、光と影が区切られたまま。 (あぁ、いかにも嘘っぽい) (嘘っぽいのが実は好き) (そんな自分がホントは嫌い) きれいな夏は、予感の中にしか生きていない。

空と海に届かない花の種

イメージ
ぼく、土のなかに埋められています。 手と手を合わせて座っています。 いつか芽を出し、花開くそのときまで。 ぼく、土のなかに埋められています。 はじめは空の上にいました。 鉄の門をくぐって、海をこえて、お湯にさらされて、それから…。 ぼく、土のなかに埋められています。 大豆と小豆の兄妹とはさよならをしました。 粟や稗とはまた会えると約束をしました。 稲とは口を利きませんでした。 ぼく、土のなかに埋められています。 ひとつだけおぼえた歌を、くりかえし口ずさんでいます。 涸れた腕をゆっくり揺らして、小さな鈴を鳴らしています。 ぼく、土のなかに埋められています。 手と手を合わせて座っています。 いつか芽を出し、花開くそのときまで。

最初の投稿

最初の投稿です。 ここから少しずつ始めよう。   在る生命体より。