シニカルな死神あくまでも悪魔(その一)
その死神は死にかけていた。
身体は痩せこけ、骨と皮だけのようになっていた。
身にまとうものといえば黒いボロ布一枚。
カチカチと噛み合わない歯を鳴らして、息も絶え絶えに横たわっていた。
ベッドの傍らでは、看護士が点数稼ぎのために色々の処置を試している。
在庫を処理するために投与された薬剤の数は3桁を超えた。
いくら飲ませようが打ち込もうが貼ろうが塗ろうが、症状は良くも悪くもならないので、看護士も意地になっていたような気がする。
隣のベッドでは、シンデレラが引きつけをおこしていた。
サンマが食べたい、サンマが食べたい、サンマが食べたいと、きっかり5分おきにうわごとのようにつぶやいているお姫様だ。
そんなに食べたいのなら、あげればいいのじゃないかと看護士に進言したらば、彼女はノドと肺に魚の骨が刺さっているんですよ、と返された。
では血を抜きましょうね、と看護士が優しく声をかけてくる。
悪い血を体の外に出しましょうね、と言って、慣れた手付きでチューブのねじれを直す。
機械のポンプが上下すると、みるみる透明のパックが液体で充満する。
シンデレラがサンマが食べたい、と言い終わってから、また次に言い始めるまでの間にこの作業が4度繰り返される。
血液パックを4つ首からぶら下げた看護士は、隣のベッドに行き、では血を抜きましょうね、と優しくシンデレラに声をかける。
悪い血を体の外に出しましょうね、と言って、慣れた手付きで針先の消毒を済ませる。
機械のポンプが上下すると、みるみる透明のパックが液体で充満する。
シンデレラがサンマが食べたい、と言い終わってから、また次にいい始めるまでの間にこの作業が3度繰り返される。
血液パックを7つ首からぶら下げた看護士は、こちらのベッドに戻り、では新鮮な血を入れましょうね、と優しく声をかけてくる。
良い血を体の中に入れましょうね、と言って、慣れた手付きで同意書にサインする。
機械のポンプが上下すると、みるみる膨らんだパックが萎んでいく。
シンデレラがサンマが食べたい、と言い始めてから言い終わるまでにこの作業が3度繰り返される。
血液パックを4つ首からぶら下げた看護士は、隣のベッドに行き、では新鮮な血を入れましょうね、と優しく声をかける。
良い血を体の中に入れましょうね、と言って、慣れた手付きで同意書にサインする。
機械のポンプが上下すると、みるみる膨らんだパックが萎んでいく。
シンデレラがサンマが食べたい、と言い始めてから言い終わるまでにこの作業が3度繰り返される。
シンデレラと隣のベッドになってから、この看護士の往復が何度繰り返されただろう。
いまや死神の半分はシンデレラであり、シンデレラの半分は死神といってもよかった。
もちろん死神はつねに半分以下で、シンデレラはつねに半分以上である。
君は数え間違えをしているのではないか、と看護士に進言したらば、レントゲンは回数が決まっているんですよ、と返された。
少なくとも自分は撮られたことがないな、と死神は思った。
ともあれ、死神は死にかけていた。
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