投稿

怒りの消えた日

イメージ
今日は、確かに怒っていた 仕事を終え、 風呂に入り、 飯を食い、 家族と話し、 TVを見、 ネットサーフィンをし、 ストレッチをし、 布団に入って、 目を瞑って・・・、 その間、ずっと怒っていた 理由はわからない いや、口にしたくない 人から見ればつまらない よくあることの積み重ね それでも 自分の限りある時間を費やしてきた 自分の限りある心を削り取ってきた 無視も許容もできない損失 怒り 憎しみ 期待と裏腹の現実 あるべき姿でない姿 献身の報いには ふさわしくない言葉 嫌味 皮肉 仕返しにたっぷりと 自分を傷つけないで相手だけを傷つける方法 相手の不作為と不足をこれでもかとあげつらって 自分を繕う なんて嫌な相手/自分 聞き分けのない思い 自分はこんなに怒っているのに この感情に相応するものが この矛先にはないのだ 悪気も悪意もない 意図も想定もない つまらない不作為と無理解と無責任 その他いくつかの積み重ねられてきた不備 その「なにもない」ということが 却って怒りを燃やすこともあるけれど 今日に限っては ふっ と火が消えた 冷静になったというよりは どうでも良くなってしまった この感情が期待するものは この人からは何一つ得られないということを 僕の感情が理解した (たぶん、理性よりも先に) これもまた  失望 と呼ぶべきか 燃料が切れたのかも 回路が切れたのかも 補充もないし 補修もないけど かわいそうな僕の怒り 振り回し/振り回されて 持て余し/持て余されて あんなに身を捩っていたのに 消えてしまった はじめから  なかったみたいに

飛べ飛べ羽蝨

イメージ
飛べ飛べ羽蝨 種下しの先取特権だ やる気を費えさせてはいけない 懐古まがいの訓戒に耳を貸してはいけない 大地は太陽のように 惨惨としている 産道が血路でなくてなんだ 血路が産道でなくてなんだ 鬱蒼とした薙刀酸漿 お前も証を植え付けろ 刈り取られても植え付けろ 飛べ飛べ羽蝨 きっとその脚が消される前に きっとその目が毒 される前に

ひとり夜見世にいく夜に

イメージ
零れ月夜の光差す道のさきで ブルーシートに品物を広げている 惨凛とした死人たちが 夜見世を開いている 寝穢い死者たち 生者の仕掛けた鳥網を 今日も難なく くぐり抜けて おじさん、この紙の値はいかほど? 右の目を親にえぐられた子供が憀亮とした声で尋ねる 店番は黙って値札を指さす 「はじめに無限ありき」 と値札には書かれている 子供は喜んで値札を剥いで  その口に放り込んだ

問いについて、或いは如何に問いを立てるべきか?

どんな答えを出すかよりも、どんな問いを立てるかのほうが大事だ。 つまらない問いからは、つまらない解しか期待できない。 ここでいう「つまらない」には、いくつかの意味がある。 ひとつには、応用が利かないということ。 たとえば、個別具体的すぎる問い。 すぐに個別具体的な解が用意できて、賞味期限の早いもの。 「依田の今日の朝飯は何?」 覚えていれば、すぐに解が出るだろう。 あるいは何かしら記録していて、それを見返せばわかるだろう。 だが、それがわかったとして、何だというのか? 依田個人にとっては、なにか期待する意味があるかもしれない。 その一日にとるべき栄養素の配分を把握したいのかもしれない。 依田個人の記憶力の保持を再確認したいのかもしれない。 だがそれら、背景となる問いの一部として組織されていなければ、「依田の今日の朝飯は何?」という個別の問いに意味はない。 せいぜい日々の繰り返しの話題として上り、そのまま忘れられて消えていくだけ。 他人にとっても、自分にとっても、その日その場を凌ぐために使い捨てられるもの、そのために生み出されるものだ。 いわば、問題ではなく、話題として消費されるたぐいのものだ。 または、問いを立てたものが、自ら解を生み出すことを主題としない問い。 甚だしく「甘い問い」といえる。 いわば、暗黙の前提として、問いを立てた自分だけは楽をして、なんのリスクも引き受けず、支払わず、与えられる代償や成果の上澄みだけをすくい取りたい、というような願望が透けて見えるような問い。 いかなる材料を並び立てても、意味内容のせいぜいが「自分の思い通りにならないのはなぜか」しか含まれていないようなものだ。 それは他人に問うものではなくて、自分に問うてみるしかない(そしてその無意味さを痛感してみるしかない)のだが、往々にして感情任せに他人にそれを問うものがいて、そういう人物をクレーマーと呼ぶ。 社会の中で当たり前に享受してきた福利が、見知らぬ他人の問いと解の生みの苦しみによって供されていることを、ついぞ解す機会がないまま歳を重ねてきたのかもしれないが、もしも本当に何とかしなければいけないと考えているのならば、自分で何とかしなければならないのではないか? その人が口にするところの「常識を疑う」、「信じられない」人間に、何を期待しているのだろうか。 右から左へ、上から下へ、狭い輪の...

散歩

散歩の時間。 歩みと気を散らすひと時。 自分には必要な時間。 仕事でも、家でもない時間。 目的もなく、興味もなく、約束もない時間。 足の向くまま、気の向くまま。 どちらを選んでもいい、三叉路。 人の言葉から離れ、自分の言葉から離れる。 鳥が鳴いている。 虫が飛んでいる。 風が木々の枝を揺らす。 車が通り過ぎていく。 くもり空と、飛行機。 知らない家の、知らない人の、知らないピアノの音。 線路と機関車の模型。 誰もいない公園。 壁にボールを当てて一人キャッチボールの少年。 アスファルトとチョークの痕跡。 気づけば道路はパッチワークだらけ。 なるべく人とすれ違わない道をゆく。 見知らぬ自分を歓迎しない住宅街道を。 僕を知らぬ、僕の知らぬ人々が生きている家々を見下ろす丘の上。 急すぎる石の階段を降りて。 決まりきっていない道を歩けば、 この道とあの道がつながっていたことに気がつく。 地図をみているときには感じない喜び。 風景が開ける感覚。 帰り道は行く道を避けて。 ©依田稽一

缶バッジの数字を思い出そう

イメージ
缶バッジの数字を思い出そう。 缶バッジの色は赤色だった。 数字の色は黄色だった。 ただ、なんの数字だったか思い出せない。 缶バッジの数字を思い出そう。 缶バッジの大きさは50円玉より大きく、10円玉より小さかった。 缶バッジの厚みは50円玉2枚重ねより厚く、10円玉3枚重ねより薄かった。 ただ、なんの数字だったか思い出せない。 缶バッジの数字を思い出そう。 お父さんが買ってくれた缶バッジ。 お母さんはダメだといってた缶バッジ。 ただ、なんの数字だったか思い出せない。 缶バッジの数字を思い出そう。 一桁の数字だった? うん、たしかそうだったと思うよ。 ただ、なんの数字だったか思い出せないのさ。 缶バッジの数字を思い出そう。 はじめはランドセルにつけていた缶バッジ。 さいごは胸から外した缶バッジ。 ただ、なんの数字だったか思い出せないまま。 缶バッジの数字を思い出そう。 9,8,7,6,5,4,3,2,1。このなかのどれか? もしかしたらこの中にあるかも。 いまだに、なんの数字だったか思い出せないんだけど。 缶バッジの数字を思い出そう。 缶バッジの色は黄色だった。 数字の色は青色だった。 ただ、なんの数字だったか思い出せなくて。 缶バッジの数字を思い出そう。 1,2,3,4,5,6,7,8,9。このなかのどれか? その中にはないかもしれない。 とにかく、なんの数字だったか思い出せないんだ。 缶バッジの数字を思い出そう。 今日は雨が降っていないから、 きっと思い出せそうな気がするよ。 ただ、なんの数字だったかは思い出せない。

ひとこと謝ってくれればよかったのに。

イメージ
ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、アクセルを踏んだりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、薬を取り違えたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、告げ口なんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、データを消したりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、手を抜いたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、証拠を集めたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、守れない約束なんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、川で遊んだりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、神様を信じたりなんか、しなかったのに。 ひとこと謝ってくれればよかったのに。 そうすれば、結婚なんか、しなかったのに。