投稿

12月, 2021の投稿を表示しています

金網のフェンスの向こうに所有された自然

イメージ
  金網のフェンスの向こうで音がなる 木々の枝を折る音 葉を揺する音 鳥の羽撃き 投げ棄てられた空き缶に目が行くのは 場違いだからか  見捨てられたものだからか 誰かの罪のあとだからか 立入禁止の看板 所有地 所有林であることの主張 山や樹々の土地を所有しているということはどういうことか 樹々の一本一本を 枝の一本一本を 葉の一葉一葉を 所有しているということはどういうことか いま この金網のフェンスを隔てて 西陽が差し込む樹々の間に彩られる光と影のコントラストを 風が過ぎ小鳥が揺らす枝と葉擦れの囁き声を 枯れ葉の裏に集く虫の微かな蠢きを なにひとつ所有していない私が 感ずるということはどういうことか なにひとつ 捨てていない私が 踏み躙られ アスファルトと混ざれなかった煙草の吸殻を 働きアリたちの棲家にもなれなかったアルミ缶を 絵にもならない風景に捨てられた広告材を やはりなお 自然のうちにあるものとして 拾い上げてしまうということは どういうことか 金網のフェンスのこちらがわで 囚われているのは果たして私だったのか 自然に所有されない所有だったのか

シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった

イメージ
  シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった スピード感をもって  スピード感をもつことに  スピード感をもっていたのに 間に合わなかったのだろうか 間が合わなかったのだろうか 緊張感をもって  緊張感をもつことに  緊張感をもっていた彼は みんなのために頑張っていた みんなが誰かは みんな知らなかったのだが 彼は 全力を尽くして  全力を尽くすことに  全力を尽くした 一人ひとりのために 一人ひとりの名も聞かず 一人ひとりの顔も見ずに 万全を期し  万全を期すことに  万全を期していた 果たして彼の知られざる苦悩に憤りを覚えるワケを聞いてみた真の目的とは? (計らずも皆の既知の楽観に歓びを忘れる結果を喋らされた偽の手段である) 突然の訃報 にあげられた驚きの声 に呼ばれた称賛の声 に寄せられた期待の声  に反響した落胆の声  に集められた非難の声 に埋もれた追悼のうた 噤まれた口から出たわけでもないそれを 味蕾のない舌先で転がして 躍らない舌から紡がれたわけでもないそれを 声帯のない喉元で留めおいて 震えない喉から濾されたわけでもないそれを 鼓膜のない耳朶から垂れ流した シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった 胸の高鳴りに後押しされた旅の速度 名も知らぬ風に孕まされた帆の膨らみ 決して離しはしないと掴んだ舵 ただ一個の生命 地図の外へ  声はもう届かない

階の十 「印度の井戸から」

イメージ
  印度の井戸から子どもが這い上がる 聖なる穢れた水の流れを胎として かつてふた親が危めた者の血を継ぎ 束ねられた因果を精として 小粒のチョコ菓子のように生まれてくる 「わたしはお前が燃やした柊の枯れ葉だよ」 「わたしはお前が聞き逃した土鳩の13番めの鳴き声だよ」 「わたしはお前が自転車に乗っていたから通れなかった道の先だよ」 「わたしはお前が…」 役に立たない白い柵を乗り越えて 濡れた脚でペタペタと乾かない足跡をつけて 子どもたちは世界へ拡がる 地表面を埋め尽くすように 滞留していた君の枕元が 積み重なるにつれて  子どもの目玉は増えていく  飽くなき君の中傷が 精度をましていくにつれて 子どもの乳歯は尖りゆく  使い途のない宵の口で 足留めを食らう旅人は 演劇でもないそんな見世物を目の当たりにし 貝類でもない軽食を口にし 刑務でもない作業を黙々とこなしたあとは ただひとりで  日記帳に今日起こらなかったことを書き留め ただひとりで 腐った水で喉を潤し 絵にもならない笑みを浮かべ ひとりの子どもと手を結んだ 「お前はわたしが振らなかった鈴の音かい」 「わたしはお前が振らなかった鈴の音だよ」 「そしてわたしはお前の声を拾わなかった耳だ」 「そしてわたしもお前の耳に届かなかった声だ」 ついてくるのか それともついていくのか いずれにせよ しばしの間 すれ違おうか 十年と 十月と 十日の想い出を 寄り添わせるために

階の九 「美術館のモモ」

イメージ
あたしこんなところにいるはずじゃないのよ ほんとはもっとステキなところにいるはずなのよ なんてったってあたしがいちばんステキなんだから 真っ赤なおべべが目立っているわ 目立ちすぎているのだわ まわりの絵なんか目じゃないわ こいつら生きちゃあいないもの 平べったくって 仰々しくって やってられないわ 澄ましたようで 苦々しい表情も 見ちゃいらんないわ そんなに鼻を近づけて 食い入るように見つめるもの? あたしのことを見なさいな 吐息がかかるほど近づいて 風に揺れる髪のリズムを その指先で感じてよ ここが舞台の上なら あたしはディーヴァ 辛気臭いあなたたちも 観客としてなら認めてあげる 豪華な縁に囚われて 壁際に並びなさいな 大きなホールの中心で なんてったってステキな あたしが立っているのだから どうして眉をひそめるのかしら あたしのおべべが目立ちすぎなのかしら あたしの声がキレイすぎるのかしら まっすぐ見られやしないから  確かめようのない 歴史や 考えや 概念に 言葉を尽くして うなずいて わかったようなふりをしているのね 景色がみたけりゃ 窓から外を見ればいいのに 自分がみたけりゃ あたしの瞳を覗き込めばいいのに なぜなのかしら なぜなのかしら  あたしにはわからないわ わからないあたしが  いちばんステキだってこと以外は

ティレシアースの鼓動

イメージ
  過去の誰かの将来の楽しみのために 産み出された稚児の皺苦茶に瞑られた眼 暮しに祈る神もなく 旅の無事を願う人もなく 風に孕まされた帆の放り出す 推進力により 舳先よりも先へ 鼻先よりも先へ 水平線の向こうの世界の果ての空の底の冥府へ 赤子は泣き泣き育ち いまや老人と成り果てていた いかな過去よりも遠い 遠い耳鳴り の残響 おまえに何一つ過去は与えられず ただ永遠に続く現在の闇のなかで 未来を照射する視線だけが与えられたのだ おまえの唯一の光は 他人にとっては深い闇 おまえは一歩も進めない おまえには盲進が許されていない ただ杖をついて立つだけ 蹌踉めけ孤狼 谷の狭間で おまえには知だけだ 知だけが許されている その知を用いることも 広めることも許されぬ 英雄に 導を示し その末を識らしめる その「必要」だけが おまえの口を開かせてよい あとは黙し おまえにとっては何一つ「必要」ではない 無数の知識を その禿頭の内で転げ回らせておくがよい 千切れ飛ぶ雲の 一片一片の 行き先を 波が掻き混ぜる泡の 一粒一粒の 炸裂を 月明かりと暗闇の 境界線の 前進と後退を 定められるまま 定められた さだめ 移ろいゆくまま 移ろわされた うつろ 知るべきでない 道標ばかり 拾い集め 楽しみも 期待も 望みも 捨てた ただの影と化して なお 感じるリズム 跡切れ跡切れの それが 許され止まる ときを待つのみ

階の八 「小さな噴水」

イメージ
水が 水が 水が 絶え間なく湧き 湧き 湧き 喉を 喉を 喉を 削るように乾き 乾き 乾き 腐り落ちた肉を 肉を 肉を 泳がせた 堀の外に針を垂らし 釣れますかな や 釣れませんな や 釣りませんな や 釣ろうとしてませんな や 釣りかねてますな や 釣りきれませんな 腰を椅子に縫い付けられた  小便小僧の 大便が 泉の水を浄め この池に落としたものは こちらの小便ですか それとも こちらの大便ですか いいえ どちらでもなく どちらでもなく 混ざり合う 精霊の経血が 噴き出して 飽き飽きした虹の橋を夜空に建てる Shower シャウエル  Rainbow ラインバウ  Shower シャウエル  Rainbow ラインバウ  資格なしの違法建築 安全管理体制の著しい不備 遵法精神の高度な腐敗 新しい主義に囚われた古い信念 蛙は歯の根が合わず  小さな噴水池にその身を投げ 入水を達成するのであった

比翼 五鳥連句 単短歌

イメージ
  揚雲雀 耳を劈く 羽の音 信天翁 瞳鞣した 黒尾羽 貝粒裏 鼻を拉げて 掻き曇る 夜啼鳥 舌捩じ切らば 人威し  小瑠璃鳥 肌を抜き去る 絵羽模様 飛ぶ鳥を落とすいきおいながながに 山石流れにはやる陸風

階の七 「レサットとオズ・レノール」

イメージ
  肉肉しく絡み合う触腕が壁沿いを這う チーズケーキが食べたくて食べたくて 彼女は今日も髪よりも長く手を伸ばす あの蕩けるようなチーズの舌触り 思い出すだけの今日に耐えかねて 明日も髪よりも多くの手を伸ばす あの焦げた焼き目の歯と舌触りと 口内で崩れて混ざる甘味と苦味を 反芻する夢を昨日も忘れてしまう されど毎日毎日毎日の現実のなか 明かりなき部屋で指が触れるのは いつもたったひとつの肉の塊だけ チーズケーキのように甘くはない 満ちているくせ満たしてはくれず 蕩けているくせ蕩けさせてくれぬ 触れるたび熱を奪われるような接触 獅子の国章をずたずたに引き裂いた 布切れをかけてやったあいつの形は ベッドに三本脚で立ち尽くす 支えることも写すこともなく  見ることも覚えることもなく いつも明かりのない部屋で いつもこの腕が触れるのは いつもひとつの肉の塊だけ 触れたことにも気づかない 触れられたことも解らない こころは互いに交わらない 絡み合えるのは手と手だけ 日毎に日毎に彼女は今日も チーズケーキが食べたくて

濡れ衣を纏う天使のような

イメージ
わたしは水底へ何かを探しに潜っていった 小さな弟を背に抱え 息を潜めて沈んでいく 明滅する水泡 黒い岩場に擬態した珊瑚礁  面と底の天地がひっくり返り 藻掻く腕より 脳が足掻く そうだ  わたしは 泳げないのだ 背なの弟の体温で  水中の暗さを忘れていた その肌もいまや刺すように 冷たい 鼻腔から眼窩へ 風が 通り抜ける そのとき  何か大きな影がわたしの視界を覆った 次の瞬間 わたしは 陽射しが照りつける プールサイドで 嘔吐する弟の傍らにいた なんと青白い肌! 背中を擦り 弟の汚物を 水浴場のなかへと 注ぎ込むわたしは 濡れ衣を纏う 天使のような 幼子に 怒鳴られている 耳は聞こえないが 金切り声の似合う剣幕だ 至らずに申し訳ないと 頭をひとつ丁寧に下げた そのまま差し出した首を 落とされても良かったのだが その時にはもう悶え始めていたのだ 夏をつづける理由が

階の六 「ロレ・エアラヴィルの書店」

イメージ
背表紙を眺めるだけで 読んだことになる本はないが 一通り読んでみたとて 背表紙の文字すら記憶にとどまらない本もある そんな本への復讐か そんな読者への嫌味か そんな作者への敬意か はたまた印刷業者への崇拝かは不明だが その本屋では棚に納められた書籍の背表紙を 遠くから眺めることしかできない 通路と本棚は硝子板で仕切られ 書籍を手に取ることは許されておらず 店員に持ってきてもらうこともできない ここは本の美術館や博物館のようなものだ 見上げるほど背の高い棚の本の背表紙を拝むため 向こうが霞んで見えるほど遠い棚の本の背表紙を追うため 階段を上り下り 双眼鏡を駆使する客たち そうまでして何を探しているのやら たといその本に世のすべてが記されていたとて たといその本に己の未来が記されていたとて その中身を読み解くことはできないのに その背表紙しか見つめることは叶わないのに だがそれが それこそが 背を向けられているということが 自分に対してその内を開かれないということが これらの本の質なのかもしれない 無数に並べられ 秘されたままの知 装われた蓄積の蓄積 未開示の文明 眺めることで 労せずして誇りを得 それらを開き解くことのないままに 安息を得る昇天を 黙して肯定するのである

駐車場は広いに越したことはない

イメージ
今日 自転車にのって走りながら 自動車と壁との間をくぐり抜けようとしていった 二人の女の子が つっかえつっかえ歌を うたい喘ぐのをみた 自動車はバックして 車庫に擬態した巨大ナマズに呑み込まれていった 危険運転致死傷の地産地消 地産地消の危険運転致死傷  ♪あのコンビニの周りには 沢山の人が並んで立っている  24時間 365日 隣の人と腕を組んで ゆ〜らゆら ゆ〜れゆれ  自動ドアでは篩えない 燃えるゴミと燃えないゴミの分別のため  エロ雑誌コーナーに囚われた娘を取り戻そうと  大手三社のコンビニチェーンを渡り歩き  ハーグ条約に則って 娘の半身を掴むパパ親  フライヤーのタイマーセットを忘れた娘を引き取ろうと  大手三社のスーパー銭湯を練り歩き  ハーグ条約に逆らって 娘の半身を握るママ親  親と引き離された娘は 親に引き剥がされた娘となり  24時間 365日 自分自身と手を切って ゆ〜らゆら ゆ〜れゆれ  あの娘の周りには 青白いコンビニが並んで立っている  ゆ〜らゆら ゆ〜れゆれ  ゆ〜らゆら ゆ〜れゆれ  女の子の一人は拝誦する  拝承する 女の子は一人  もう二度と車体の下を潜ることはないのであった  もう二度と立ち漕ぎをすることもないのであった 三度見する男がひとり 今日はレジ袋税を進んで支払うのであった 嗚咽とおでんの汁を漏らしながら