シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった
シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった
スピード感をもって
スピード感をもつことに
スピード感をもっていたのに
間に合わなかったのだろうか 間が合わなかったのだろうか
緊張感をもって
緊張感をもつことに
緊張感をもっていた彼は
みんなのために頑張っていた みんなが誰かは みんな知らなかったのだが
彼は 全力を尽くして
全力を尽くすことに
全力を尽くした
一人ひとりのために 一人ひとりの名も聞かず 一人ひとりの顔も見ずに
万全を期し
万全を期すことに
万全を期していた
果たして彼の知られざる苦悩に憤りを覚えるワケを聞いてみた真の目的とは?
(計らずも皆の既知の楽観に歓びを忘れる結果を喋らされた偽の手段である)
突然の訃報
にあげられた驚きの声
に呼ばれた称賛の声
に寄せられた期待の声
に反響した落胆の声
に集められた非難の声
に埋もれた追悼のうた
噤まれた口から出たわけでもないそれを
味蕾のない舌先で転がして
躍らない舌から紡がれたわけでもないそれを
声帯のない喉元で留めおいて
震えない喉から濾されたわけでもないそれを
鼓膜のない耳朶から垂れ流した
シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった
胸の高鳴りに後押しされた旅の速度
名も知らぬ風に孕まされた帆の膨らみ
決して離しはしないと掴んだ舵
ただ一個の生命
地図の外へ
声はもう届かない
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