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金網のフェンスの向こうに所有された自然

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  金網のフェンスの向こうで音がなる 木々の枝を折る音 葉を揺する音 鳥の羽撃き 投げ棄てられた空き缶に目が行くのは 場違いだからか  見捨てられたものだからか 誰かの罪のあとだからか 立入禁止の看板 所有地 所有林であることの主張 山や樹々の土地を所有しているということはどういうことか 樹々の一本一本を 枝の一本一本を 葉の一葉一葉を 所有しているということはどういうことか いま この金網のフェンスを隔てて 西陽が差し込む樹々の間に彩られる光と影のコントラストを 風が過ぎ小鳥が揺らす枝と葉擦れの囁き声を 枯れ葉の裏に集く虫の微かな蠢きを なにひとつ所有していない私が 感ずるということはどういうことか なにひとつ 捨てていない私が 踏み躙られ アスファルトと混ざれなかった煙草の吸殻を 働きアリたちの棲家にもなれなかったアルミ缶を 絵にもならない風景に捨てられた広告材を やはりなお 自然のうちにあるものとして 拾い上げてしまうということは どういうことか 金網のフェンスのこちらがわで 囚われているのは果たして私だったのか 自然に所有されない所有だったのか

シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった

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  シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった スピード感をもって  スピード感をもつことに  スピード感をもっていたのに 間に合わなかったのだろうか 間が合わなかったのだろうか 緊張感をもって  緊張感をもつことに  緊張感をもっていた彼は みんなのために頑張っていた みんなが誰かは みんな知らなかったのだが 彼は 全力を尽くして  全力を尽くすことに  全力を尽くした 一人ひとりのために 一人ひとりの名も聞かず 一人ひとりの顔も見ずに 万全を期し  万全を期すことに  万全を期していた 果たして彼の知られざる苦悩に憤りを覚えるワケを聞いてみた真の目的とは? (計らずも皆の既知の楽観に歓びを忘れる結果を喋らされた偽の手段である) 突然の訃報 にあげられた驚きの声 に呼ばれた称賛の声 に寄せられた期待の声  に反響した落胆の声  に集められた非難の声 に埋もれた追悼のうた 噤まれた口から出たわけでもないそれを 味蕾のない舌先で転がして 躍らない舌から紡がれたわけでもないそれを 声帯のない喉元で留めおいて 震えない喉から濾されたわけでもないそれを 鼓膜のない耳朶から垂れ流した シンドバッドは共感の嵐が渦巻く海へ出たまま帰らなかった 胸の高鳴りに後押しされた旅の速度 名も知らぬ風に孕まされた帆の膨らみ 決して離しはしないと掴んだ舵 ただ一個の生命 地図の外へ  声はもう届かない

階の十 「印度の井戸から」

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  印度の井戸から子どもが這い上がる 聖なる穢れた水の流れを胎として かつてふた親が危めた者の血を継ぎ 束ねられた因果を精として 小粒のチョコ菓子のように生まれてくる 「わたしはお前が燃やした柊の枯れ葉だよ」 「わたしはお前が聞き逃した土鳩の13番めの鳴き声だよ」 「わたしはお前が自転車に乗っていたから通れなかった道の先だよ」 「わたしはお前が…」 役に立たない白い柵を乗り越えて 濡れた脚でペタペタと乾かない足跡をつけて 子どもたちは世界へ拡がる 地表面を埋め尽くすように 滞留していた君の枕元が 積み重なるにつれて  子どもの目玉は増えていく  飽くなき君の中傷が 精度をましていくにつれて 子どもの乳歯は尖りゆく  使い途のない宵の口で 足留めを食らう旅人は 演劇でもないそんな見世物を目の当たりにし 貝類でもない軽食を口にし 刑務でもない作業を黙々とこなしたあとは ただひとりで  日記帳に今日起こらなかったことを書き留め ただひとりで 腐った水で喉を潤し 絵にもならない笑みを浮かべ ひとりの子どもと手を結んだ 「お前はわたしが振らなかった鈴の音かい」 「わたしはお前が振らなかった鈴の音だよ」 「そしてわたしはお前の声を拾わなかった耳だ」 「そしてわたしもお前の耳に届かなかった声だ」 ついてくるのか それともついていくのか いずれにせよ しばしの間 すれ違おうか 十年と 十月と 十日の想い出を 寄り添わせるために

階の九 「美術館のモモ」

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あたしこんなところにいるはずじゃないのよ ほんとはもっとステキなところにいるはずなのよ なんてったってあたしがいちばんステキなんだから 真っ赤なおべべが目立っているわ 目立ちすぎているのだわ まわりの絵なんか目じゃないわ こいつら生きちゃあいないもの 平べったくって 仰々しくって やってられないわ 澄ましたようで 苦々しい表情も 見ちゃいらんないわ そんなに鼻を近づけて 食い入るように見つめるもの? あたしのことを見なさいな 吐息がかかるほど近づいて 風に揺れる髪のリズムを その指先で感じてよ ここが舞台の上なら あたしはディーヴァ 辛気臭いあなたたちも 観客としてなら認めてあげる 豪華な縁に囚われて 壁際に並びなさいな 大きなホールの中心で なんてったってステキな あたしが立っているのだから どうして眉をひそめるのかしら あたしのおべべが目立ちすぎなのかしら あたしの声がキレイすぎるのかしら まっすぐ見られやしないから  確かめようのない 歴史や 考えや 概念に 言葉を尽くして うなずいて わかったようなふりをしているのね 景色がみたけりゃ 窓から外を見ればいいのに 自分がみたけりゃ あたしの瞳を覗き込めばいいのに なぜなのかしら なぜなのかしら  あたしにはわからないわ わからないあたしが  いちばんステキだってこと以外は

ティレシアースの鼓動

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  過去の誰かの将来の楽しみのために 産み出された稚児の皺苦茶に瞑られた眼 暮しに祈る神もなく 旅の無事を願う人もなく 風に孕まされた帆の放り出す 推進力により 舳先よりも先へ 鼻先よりも先へ 水平線の向こうの世界の果ての空の底の冥府へ 赤子は泣き泣き育ち いまや老人と成り果てていた いかな過去よりも遠い 遠い耳鳴り の残響 おまえに何一つ過去は与えられず ただ永遠に続く現在の闇のなかで 未来を照射する視線だけが与えられたのだ おまえの唯一の光は 他人にとっては深い闇 おまえは一歩も進めない おまえには盲進が許されていない ただ杖をついて立つだけ 蹌踉めけ孤狼 谷の狭間で おまえには知だけだ 知だけが許されている その知を用いることも 広めることも許されぬ 英雄に 導を示し その末を識らしめる その「必要」だけが おまえの口を開かせてよい あとは黙し おまえにとっては何一つ「必要」ではない 無数の知識を その禿頭の内で転げ回らせておくがよい 千切れ飛ぶ雲の 一片一片の 行き先を 波が掻き混ぜる泡の 一粒一粒の 炸裂を 月明かりと暗闇の 境界線の 前進と後退を 定められるまま 定められた さだめ 移ろいゆくまま 移ろわされた うつろ 知るべきでない 道標ばかり 拾い集め 楽しみも 期待も 望みも 捨てた ただの影と化して なお 感じるリズム 跡切れ跡切れの それが 許され止まる ときを待つのみ

階の八 「小さな噴水」

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水が 水が 水が 絶え間なく湧き 湧き 湧き 喉を 喉を 喉を 削るように乾き 乾き 乾き 腐り落ちた肉を 肉を 肉を 泳がせた 堀の外に針を垂らし 釣れますかな や 釣れませんな や 釣りませんな や 釣ろうとしてませんな や 釣りかねてますな や 釣りきれませんな 腰を椅子に縫い付けられた  小便小僧の 大便が 泉の水を浄め この池に落としたものは こちらの小便ですか それとも こちらの大便ですか いいえ どちらでもなく どちらでもなく 混ざり合う 精霊の経血が 噴き出して 飽き飽きした虹の橋を夜空に建てる Shower シャウエル  Rainbow ラインバウ  Shower シャウエル  Rainbow ラインバウ  資格なしの違法建築 安全管理体制の著しい不備 遵法精神の高度な腐敗 新しい主義に囚われた古い信念 蛙は歯の根が合わず  小さな噴水池にその身を投げ 入水を達成するのであった

比翼 五鳥連句 単短歌

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  揚雲雀 耳を劈く 羽の音 信天翁 瞳鞣した 黒尾羽 貝粒裏 鼻を拉げて 掻き曇る 夜啼鳥 舌捩じ切らば 人威し  小瑠璃鳥 肌を抜き去る 絵羽模様 飛ぶ鳥を落とすいきおいながながに 山石流れにはやる陸風