紙コップが話しかけてきた話 (1)
ある日、紙コップが話しかけてきた。
「おい、あんた、こっちだ、あんた、ここだ、ここを向け、ここだ」
テーブルの上に立てられていた(といってもその時には倒れていたのだが)、積み重ねられた紙コップのタワーのほうから、俺を呼ぶ声がした。
「なんだ」
俺はまだ10カップぐらい残っていた紙コップタワーを手に取って、声に応答した。
「馬鹿野郎、いっぺんに手に取るヤツがあるか。俺はいちコップとして、お前に話があるんだ」
よくわからないが、紙コップは憤慨しているようだった。仕方なく、一番上になっていた紙コップを手に取り、残りの10数カップマイナス1カップの山をテーブルの上に戻し、手に残った1カップの紙コップに向き直った。
「これでいいか」
「馬鹿野郎! 俺はそっちじゃない、こっちのほうだ! 馬鹿にしてるのか馬鹿野郎!」
どうやら俺に話しかけてきた紙コップは、この手の中にある紙コップではなく、俺がテーブルの上に戻した紙コップたちの中にまだ紛れていたらしい。紙コップはさっきよりも激しく憤っていた。
「悪いな、気が付かなかったよ」
よくはわからないが、なんとなく悪い気がしたので、とりあえず謝りながらカップのタワーを手に取る。
「どれだい?」
「ここまで言ってまだわからないのか? 下から数えて6番目だ6番目! まさか数も数えられねぇってことはないよな!?」
何をそんなに怒っているのか。ひとこと聞いてやりたい気持ちが沸き上がったが、黙って言われたとおりにした。下から数えて6番目。下から数えて……。
手が止まる。
「おい」
「なんだ」
「どっちが下で、どっちが上なんだ?」

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