潰された蜂の夢
はっと目が覚めた。
枕元に君がいた。
難儀しながら身体を起こし、君に尋ねた。
「僕は死んでいたかい」
「ああ、やっと息を吹き返したね」
本を片手に君は答えた。
「もう少し時間が経てば、水でもかけてみたところだよ」
「そうなる前に帰れてよかった」
僕はゆっくり頭を振った。
「ときに君、僕は夢を見ていたようだ」
「死んでいたのに夢を見るかい?」
君のため息一つ無視して僕は続けた。
「僕は教会の前に咲き乱れる花畑の中を歩いていた。歩いていると死んだお袋と親父が佇んでいるのが見えた。近づこうとしたのだけど、僕の名前を呼ぶ声がするので後ろ髪引かれる思いで振り返った。振り返るやいなや僕の身体は蜂になり、花吹雪のなかをブンブンと飛んでいた。蜂になったというのに僕を呼ぶ声は止まない。仕方がないので花畑を抜け、教会の中庭を抜け、ステンドグラスを突き抜け、教会の裏の墓地に出た。墓地では子どもたちが卒塔婆を担いで走り回り、笑いながら転げ回っているので肝が冷えたが、僕は蜂なので気にしなかった。線香の煙をかいくぐりながら飛んでいくと、鐘楼に吊るされた銅鐸が尼に撞かれるたびに僕の名前を呼んでいた。その呼び声があまりにも必死なので、釣られて蜂の僕は鐘の中に飛び込んでいった。飛び込んでみると、この部屋の中で僕の名前を呼ぶ君の前に飛び出てきた。君の方は僕に呼びかけていたら、視界に急に蜂が飛び込んできたので、驚いて僕を叩き落とそうとしたね。僕はすんでのところで体をかわして寝転んでいる僕の身体にすっと舞い戻った。その瞬間に息を吹き返すことができたわけさ」
君はあくびを噛み殺していった。
「なるほどあの蜂は君だったのか」
「どうやらそうだ。君に殺されなくてよかったよ。」
「いや、僕は殺してしまったよ」
言うなり君は、本の表紙を裏返して僕に見せた。
潰れた蜂の骸がへばりついていた。
黄色い体液が涙のように滴り落ちているのだった。
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