階の十五 「聖ミューズの庭先で」
そこに立っているのは私を待つわけではないミューズ
見上げる私を見下ろす貴女は憂いの先に涙を零すことに長け
輝く貴女を探す私のさ迷いを貴女は素早く発見する
躊躇いを覚えさせないように貴女の指を這わせて
私の眼指を容易く奴隷としてしまう湿度
私は光に集まる虫のようなもの
生きるために海を渡る鳥の餌に過ぎぬもの
目的を持たずただ惹きつけられるままに集められたもの
貴女は群れに集られることでより輝く輝き
真に純白なのであれば白いキャンバスの上に立てばよいのに
あえて泥沼にその身を横たえるコントラストが貴女の彩り
私は貴女に必要ではない
貴女は私に必要ではない
互いが互いに要らぬもの
協調を壊すもの 均整を損なうもの
質を歪めるもの 生を汚すもの
出会いは衝突ですらなく浸食であった
互いに互いを食うことすらできない
食った側から吐き出した 飲み込むさなかに排泄した
貴女は柔らかく見えて その実 堅固な石であり
私は外殻に守られているようでいて 震え 溶かされる内臓でしかない
貴女の庭に生かされている私に活かされていると信じたい貴女を
幻滅とともに崩れていくほどに加速していく私の愛を
底の抜けた水瓶に注いで植え込みの花々に振り撒く貴女を
夢のない意味の檻に囚われた私の愛を ミューズ
貴女ではないひとに捧げます 貴女のもとで 貴女の前で
だから捧げ持つこの手から どうか掠め取って
貴女に搾り尽くされた 愛の抜け殻 抜け殻の愛を
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