モンマルトルの眺めの向こう
赤いベストの男が徐に口を開いた
「このグランマルニエを賭けて勝負しようか」
青いトンガリ帽子の男はレンガに腰掛けたまま沈黙している
ふたりが向き合い、しかし決して目線は合わせないまま
幾ばくかの時が流れた
懐中時計はその針を着々と進め
青黄色の蝶々は
帽子の先に止まろうとしたまま中空で停止している
ダイヤのクイーンは壁に磔にされ
クラブのクイーンは地に伏し
残りはモンマルトルの眺めの向こうに去っていった
天井から金のチェーンで吊り下げられた指輪のなかに
薬指を囚われたままの男ふたりは
つまるところ 何も賭けることができないのであった
©依田稽一
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