あみだの如く来たりて抉る
あいつは囚人だった。
何をやらかしたのかは誰も知らない。
前に一度だけ聞いてみたが、
本人曰く「何もしていない」そうだ。
正確に言えば「何もしなかったから、ぶち込まれた」らしい。
そんなことってあるか?
本気かどうかはわからないが、それ以上答える気はないってことだけわかった。
だから俺はあいつのことなんかほとんど何も知らねえんだ。
まぁ正直、あいつが何をしていたのかなんてこれっぽっちも興味はなかった。
ただ、そのときは退屈で退屈で、どうにかなりそうだったんだ。
昔話なんて、つまらない時間をどうにかやり過ごすためにしか役立たないだろ?
今もそうか。 どうでもいいことだが。
とにかくその時は、そんな昔話すらもできなかったんで、俺から賭け事をもちかけたんだ。
何でも良いからなにか賭けないか、って。
ただ時間を過ごすのだけは耐えられないからよ、って。
そしたらあいつは、あみだくじを提案してきた。
わかるよな、あみだくじ。
ふたりで賭けて、あたりを引いたほうが取る、ってことになった。
木の板に、黒炭で線を描いた。
いや、砂の上に指先で描いたかもしれない。
俺じゃなくてあいつが描いたから、よく覚えてないんだ。
ただ、あいつは縦の線を引いてから横の線を引くのじゃなくて、
横の線を引いてから縦の線を引いていた。
なぜかそれはよく覚えてる。
普通のやつは縦の線を引いてから、横の線を適当に引くからな。
こいつは先にこっちを決めようとするのか、と思ったんだ。
結局そのまま引かせたが、当たりの場所は俺が選んだ。
くじを引くときは、俺から先に選んで、次にあいつが選んだ。
結果、ふたりとも外れだった。
それでふたりとも取らなかった。当たりを引かなかったからな。
だから何を賭けたかなんて聞くなよ。
一回こっきりなんだって、お互いわかってたのさ。
あいつとは別れて、それっきり。
もう会うこともない。
©依田稽一
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