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ぼくたちだけは囲えないぼくたちのうた

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ぼくたち何かを囲うもの 空っぽだけれど囲うため いつでも何かを待ってるよ 囲いたいものないけれど 囲わされるのを望んでる 囲いの入り口ないけれど 囲うときには広がるよ 囲いの出口もないけれど 囲いの上から取ればいい どんな品でも囲うから 核なきぼくらに核おくれ はみ出たようでも囲い済み となりの囲いに分けもいい となりの囲いと繋がって 大きな囲いになってもいい ぼくらは整列とくいだよ 背でも番でも逆さでも 中身を寄せるも自由自在 隠れて見えなくなったとしても そこにいるのは変わらない ぼくたち何かを示すもの 囲いの中から囲いの外の 何かを囲って見せたげる 隣の囲いの中のもの 隣の囲いのそのまた隣 囲いの敷地の隣の敷地 敷地の領土と異なる領土 正しく示して許しがあれば いつでも繋いで見せたげよう 囲ったものと見えるもの 違っているけどそれでいい 囲いの中の囲いも大事 肝心なのは位置関係 ズレない心算が置き換えられて やりそこなっても囲うから 正しく何かを示しておくれ ぼくらは何かと等しい囲い ぼくだけのものは囲えない ぼくだけのぼくを塗れもせず ぼくを忘れた白い布地を 背中に背負って君を待とうか

階の五 「それは人が支えし宮殿」

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4000年をかけてそれは創られた 100年に一人の逸材を100年に一人ずつ用い 40の建材を支柱として10人の集まりを1000年として 4000年を4つの区画で表す宮殿 それは四季ではない――それは脳幹の頭蓋である それは四方位ではない――それは心臓の肺腑である それは四神ではない――それは背骨の踵である それは四君子ではない――それは内耳の目蓋である 設計士は永遠の象徴を生命の意趣に代えた 芸術家は郷愁の風景を神秘の意訳に換えた 建材は健在であったころの名を忘れられ 新たに名付けられまたその名を忘れられた 記憶は奥底にはない大気に霧散し ありもしない歴史の闇に葬られた 逸材たちの身は葬られもせず  散りゆくことも許されぬまま これは単なる加害妄想  前に進んだあとで後ろに戻ったときに これまで歩んだ道を二度と辿れないような 出口ではない穴の空いた袋小路でしかない  はじめの人から300年が経過したころ 宮殿が燃え 4人が失われた ――100年かけて4人を集めなおした その600年後  宮殿が燃え 11人が失われた  ――100年かけて11人を集めなおした その200年後 宮殿が燃え 13人が失われた ――100年かけて13人を集めなおした その2600年後 宮殿が燃え 40人が失われた ――100年かけて40人を集めなおした これは単なる加害妄想  前に進んだあとで後ろに戻ったときに これまで歩んだ道を二度と辿れないような 出口ではない穴の空いた袋小路でしかない  実際のところ100年に一人の逸材が 何人費やされてきたのか知る由もないが この宮殿は幾度も遭った大火にもめげず 建て直されてきたのである 味気のない歴史解説の自動音声は途切れ 名も知らない建材の彫像の目が 名も知らない君の目を見つめて 「ただ行くままに先へ進め」と告げる―― そんなわけはないのだから  君は君の肋骨が告げるまま 人の支える道を足蹴にして ただ行くままに先へ進め

階の四 「ニューロとエルバー」

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君の立ち上がったあと 残された木の椅子が 周りの石造りの灰のなかで その位置を示す時 見上げるほど高い柱よりも その空席が僕を刺す 「先に行くよ」と そんな空言を残して あの知識の山の頂まで 半分の高さに達した 残りの半分は 300年後に積み上げたあとで辿ろう 7合目で 君を待つ賢人が  僕を待つ愚行を犯す前に 万華鏡の内側の ステンドグラスの虹が 空の色だけは映さずに 冬を作っている 監獄の中に入れずに苦しむニューロ 囚われの身になれず悶えるエルバー 君は登らなくていい ニューロ 触れていい肌もなく 足をかけていい窪みもないから 君は飛ばなくていい エルバー 身の軽さは失われて 重力も信頼をなくしたから ただ吸い込まれていけば それでよい ただ吸い込まれていけば それでよい ひしと 手を握れ ひしと 手を握れ

階の三 「太陽の下の牢獄」

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螺旋の行く先は太陽の照らす箱庭の中の牢獄 中心となる噴水池をぐるりと囲うように 均等に並べられた柵つきの牢屋が 雛壇のように六段に重ねられている 牢に囚われているのは青々とした植物たち 葉を伸ばし 蔦を伸ばし 根を伸ばし 空にわが身を懸けようと藻掻いている 衣を脱ぎ捨てた看守たちが目線を切ると たちまちのうちに根は枯れ 蔦は千切れ 葉は焼け焦げる 他の株が見切られている間に 我先にと尖塔に絡みつく 花弁に仏性が宿っていたなら 蜜を求めて数多の媒介者たちが集っただろう 種子に神性が秘められていたなら 大海を越えて運ばれもしただろう だが囚われの植物たちに冥応はない 噴水がもたらす僅かな湿気のみが生きる糧なのだから そこに生い茂ろと定められたときから終まで実りは無し 成長とは言えぬ繁茂 習熟とは言えぬ紅葉 錠はないのに扉は開かず 空いた扉から踏み出す足がない 恨み言は太陽に灼かれて 黒幕の太白を識らない葉緑体たちのために 七段目となる花冠を捧げよう 葡萄の房を一つもいで一粒を噛み潰そう 植生の幾何学がいずれ崩れ去るさまを楽しんで想起しよう その宣言が下されるのを 今は待つだけなのだから

階の二 「蝸牛クレム」

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劇場の入口を抜けたら 巨大な蝸牛がいた 名はクレム 道を修めるもの 無数の金色のピンを刺された 鈍い灰白色の殻を負い 行道を食み進めるもの クレムの這いずった跡は天の川よりも光り輝き 彼が這い回らなかった部分の道は 夜空より黒く染まってしまう まるで足の踏み場もない底抜けの暗闇 クレムは自分の足跡を辿られることは気にも留めないが 自分の足跡を横切られることを大いに嫌う 触覚を顰めて その巨体を戦慄かせたあと みずからの殻に閉じこもるだろう その時がチャンスだ 君は螺旋の頂から降ってもよいし 麓から登り始めてもよい 右回りか 左回りかを 決めて 始めさえすればよい 螺旋の山の中腹で 君はある人とすれ違う 騙し絵のように 君の大切な人とよく似た人のすがた 片目を閉じて 振り返ってもよいが 鼻が利くなら 湿った巻き貝の臭いがするだろう 耳の内から君を擽る 無音の声が 登りか降りか 右か左か 光か闇か 訊ねてくることだろう 好きに答えてみるとよい クレムは「どちらでもよい」と言うだろう (わたしが彼であれば 解を返すことなどありえないが)

階の一 「レインラグの劇場入り口にて」

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大理石で設えられた劇場の入口で 二人の男が君を待つ 一人は剣を携え 一人は天秤を掲げている よく似た双子の二柱 剣の男は右眼が碧玉で左眼が蛍石 天秤の男は右眼が蛍石で左眼が碧玉だ シャンデリアの蝋燭が揺らめくたびに 男たちの瞳が煌めきを返す 階段を登り切る君を  観客として相応しいか見定める眼差し 君よ 測られることを恐れるな 彼らの足は石に縫い付けられたもの 君の足は段を乗り越えて 君を世界へ運ぶもの 君よ 刺されることに狼狽えるな 彼らの口は開かれることを許されぬもの 君の口は歓びを吸い 感嘆を謳い上げるもの 荘厳の白さなど 君の影で覆い隠せばいい 灯火のひかりは 君の表情を照らし出せないから 進んで潜れ 脇目も振らず それが幕開きのきっかけなのだ

してはいけないことをしました

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してはいけないことをしました あげてはいけない餌をあげました やってはいけない水をやりました 与えてはいけない薬を与えました 信じてはいけない教えを信じました 行ってはいけないところに行きました 渡してはいけない金を渡しました 待ってはいけない人を待ちました 回してはいけない方向に回しました 押してはいけないボタンを押しました 触れてはいけないものに触れました 舐めてはいけない蜜を舐めました 出してはいけない声を出しました 捨ててはいけないものを捨てました 科してはいけない罪を科しました 越えてはいけない域を越えました 失くしてはいけないものを失くしました 忘れてはいけないことを忘れました 見てはいけない夢を見ました してはいけないことをしました ©依田稽一、Keiichi Yoda